結婚の損得vol.1|結婚にはもっと「お金」の話が必要だ。

2023年春、一念発起して婚活を始めようとしたある男性は、頭を抱えていた。

「なぜ、こんなにも結婚に関する情報が少ないんだ」

読者の方は、何を言っているんだと思うかもしれない。結婚に関する情報はメディアやSNSであふれている。

しかし、結婚のメリットを「ロジカル」に示して、意思決定を後押しをするような情報が、果たしてどれだけあるだろうか――。

結婚は、ロマンティックなだけじゃない

あれからもう、2年がたとうとしている。当時困り果てていた男性は結婚相談所ナレソメ予備校に入会し、8か月半の活動の経て人生の伴侶と出会った。そして、ナレソメ予備校との縁も続き、今月からナレソメノートの副編集長を拝命することとなった。

結婚する前は色々と葛藤することもあったが、今は心の底から結婚して良かったと思っている。それはかけがえのないパートナーとともに過ごせるという「ロマンティック」なメリットだけでなく、ダブルインカムになったことで経済的にゆとりが持てるなど「ロジカル」に伝えられるメリットも感じているからだ。

それゆえ、こんなことを思うこともある。

「結婚のメリットが、もっとロジカルに発信されてもいいのではないか」

先にお伝えしたとおり、結婚のメリットにはロマンティックな一面もある。しかし、対照的にロジカルな一面がある。

にもかかわらず、世の中にあふれている結婚の情報は、ロマンティック(もしくは「サレ妻」などに象徴されるグロい)感情的なものに偏りすぎているように感じる。

一方で、結婚のメリットをロジカルに発信しているコンテンツはほとんどない。そのため、冒頭の男性のように、意思決定がなかなかできない人も一定数いるのではないだろうか。

「ロマンティックラブ・イデオロギー」を強固にする無限ループ

結婚がロマンティックに取り上げられるのは、世の中のニーズの裏返しでもある。結婚をロマンティックに捉えて感情に訴えかけたほうが、衆目を集めやすい。メディアであれば番組が視聴されたり、書籍が大ヒットしたりする。これにより利益が還元され、また同じようなコンテンツが作られる。

そして、これが無限ループのように繰り返されることで、人々に「結婚はロマンティックなものである」という刷り込みがなされていく。ロマンティックな恋愛の先に結婚があるという「ロマンティックラブ・イデオロギー」は、こうしてより強固になるのだろう。

しかし、一歩引いて考えてみてほしい。結婚には感情的な側面だけでなく、法律や経済など合理的に考えなければならないことが含まれていることを――。結婚はロマンティックな要素だけでなく、日々の生活という現実もある。個人的には、むしろ後者の要素のほうが強いように感じる。

恋愛と結婚は別なもの。20〜30代に広がる新たな価値観

そんな現実に対する認識が広まっているのか、時代の変化に合わせて結婚に対する見方も変わっている。特に結婚適齢期に当たる20代・30代では「恋愛と結婚は別なもの」という認識が広まりつつあるようだ。

博報堂生活総合研究所の2024年の調査によれば、「恋愛と結婚は別なもの」と考えている比率は以下のとおりだ。

男性20代:52.4%

男性30代:52.3%

女性20代:50.0%

女性30代:57.6%

特に、未婚が多いと思われる20代の半数以上が、すでに「恋愛と結婚は別なもの」と認識しているのは大きな意味を持つだろう(ちなみに、2000年以前は「恋愛と結婚は別なもの」と認識している20代は半数未満だ)。

なぜ、このような意識の変化が若い世代で広まりつつあるのだろうか。これは筆者個人の推測だが、結婚している人(特に既婚女性)がより身近に存在するようになったのが大きいと思われる。

例えば、かつては結婚や出産を機に女性が会社を辞めて、家庭に入るのが一般的だった。しかし、近年はそうした傾向も薄れつつある。産休や育休を取得しつつ、働き続ける女性が増えたおかげで、未婚の若い世代が「結婚のリアル」を垣間見る機会も増えているはずだ。一例を挙げれば、子どもの保育園への送り迎えをする母親(最近は父親が担うケースも増えている)を見て、結婚に対する認識も変わっていると思われる。

またSNSの普及も見逃せないだろう。玉石混交とはいえ、良くも悪くも「結婚のリアル」が発信されることで、結婚に対する意識が大きく変化していることが予想される。

「お金」を軸に、結婚のメリットをロジカルに伝えたい

令和の現代の状況を踏まえて、結婚をロマンティックな観点ではなく、経済的なメリットなどロジカルな観点でも考えたい――。この連載を立ち上げるモチベーションは、まさにここにある。

その上で、まずは「結婚とお金」の関係に着目したい。あえてお金(数字)を尺度として用いることで、結婚をよりロジカルに捉えられるのではないかと考えている。

また結婚適齢期の男女を取り巻く経済状況に明るい兆しが見え始めており、結婚に関わるお金の議論がしやすい土壌が整いつつあるのも大きい。

例えば「経済的な理由で結婚できない」という声をよく見聞きする。特に「不本意非正規雇用が増えたため、若者が貧困化している」という論調はいまだに残っている。

しかし直近のデータなどを見ると、果たしてその論調にどれほどの合理性があるのか、疑問を持つこともある。2024年に出版され、重版が続いている『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』(坂本貴志著、講談社現代新書)では、「正規化が進む若年労働市場」という章が設けられ、まさに結婚適齢期に当たる年代の雇用・賃金の状況がデータで示されている。

これによると、若年層の初任給は2014年以降上昇を続けており、不本意非正規の比率に至っては統計を開始した2013年からほぼ半減(2013年:17.9%→2023年:9.2%)している。だとすれば、若者の貧困化の原因を不本意非正規雇用に求める先の論調は、実態を反映していないと言えるだろう。

このように、結婚に関する論調や常識などのなかには、昭和・平成では正しかったものの、令和の現代では実態を反映していないものもある。このような「時代に適さない古い価値観」も、お金を切り口にアップデートしたい。

最後に、誤解が無いように念のためお伝えしておくと、私は決して結婚のロマンティックな側面を否定するつもりはない。人間に感情がある以上、論理だけで物事が解決することはなく、実際に私も結婚して感情が満たされるというメリットを感じている。

一方で、感情だけがフォーカスされることに違和感を持つ自分もいる。結婚はその最たるものの1つであり、これを変えることで、「ロマンティックラブ・イデオロギー」を打破して、令和の現代にマッチした結婚観を確立できるのではないだろうか。

「結婚とお金」の関係をひも解くことは、そのファーストステップになるだろう。そして、ステップを踏み続けることで「生活の質」だけでなく、恋愛、結婚、出産の関係を最適化する「ロジカルラブ・イデオロギー」を確立が実現すると信じている。

ナレソメノート 副編集長タナカ

タナカ
タナカ

この記事が配信される3日前、社長の宇波がある討論番組に出演した。その際に「ロジカルラブ」について話したところ、一部の出演者から笑いがあがった。

決して否定する意味はなかったのだろう。ただ、まだ笑ってしまうくらい「ロジカルラブ」が世の中の常識からはかけ離れているのだと実感した。

この距離感をどう埋めていくか。これこそが、この連載の意義なのかもしれない。「良薬は口に苦し」となれるようなコンテンツをお届けしたい。