結婚は人を幸せにする?最高の結婚相手は「最高の親友」!? 幸福度を高める結婚の知られざるメカニズム

結婚は人を幸せにするのか――。
この古くて新しい問いに、経済学と幸福度研究の視点から力強い答えを示した画期的な論文があります。それが、ショーン・グローバー氏とジョン・F・ヘリウェル氏による「How’s Life at Home? New Evidence on Marriage and the Set Point for Happiness」です。
この研究は、単に「結婚している人=幸せ」という相関関係をなぞるだけでなく、「なぜ、どのように」結婚が幸福に影響するのかを、大規模なデータを用いて深く掘り下げています。その発見は、私たちの結婚観や人生の選択に、新たな光を当ててくれるかもしれません。
「幸せな人が結婚する」だけではなかった
多くの人が「もともと幸せな性格の人が結婚しやすいだけでは?」という疑問を抱きます。 経済学ではこれを「選択バイアス」と呼び、結婚と幸福の因果関係を探る上での大きな壁となっていました。
しかし、この論文はイギリスの長期的な追跡データ(BHPS)を用い、個人の「結婚前の幸福度」を考慮に入れた分析を行いました。
その結果は驚くべきものでした。たとえ、もともと幸福度が高かったという要因を差し引いても、結婚した人々は、独身のままでいた場合よりも明らかに高い生活満足度を維持していたのです。これは、結婚そのものに幸福度を高める「因果効果」が存在することを示唆しています。
結婚は「人生の冬」を乗り切るための防寒着
人の幸福度は、青年期から徐々に下がり始め、40代後半から50代で底を打つ「U字カーブ」を描くことが知られています。この、仕事や家庭の責任が重くのしかかる「中年の危機」とも言える時期に、結婚はどのような役割を果たすのでしょうか。
論文は、イギリスの数十万人のデータを分析し、このU字カーブの「谷」が、未婚者に比べて既婚者の方がずっと浅いことを発見しました。つまり、結婚は中年期特有のストレスや困難を乗り越えるための強力なセーフティネットとして機能している可能性が高いのです。

さらに驚くべきことに、この「中年期の落ち込みを和らげる効果」は、文化や国による結婚の幸福度への全体的な影響の違い(例えば、北米ではプラスだが南米ではマイナスなど)にかかわらず、サハラ以南のアフリカを除くほぼ全ての地域で共通して見られました。
これは、配偶者という存在がもたらす社会的支援が、文化を超えた普遍的な価値を持つことを物語っています。
幸福の鍵は「友情」にあり
では、結婚がもたらす幸福の源泉とは、一体なんでしょうか。
経済的な安定でしょうか? それとも社会的なステータスでしょうか?
この論文が提示する最も興味深く、そして心温まる答えは「友情」です。

研究では、回答者に「あなたの最も親しい友人は誰ですか?」と尋ね、その答えと幸福度の関係を分析しました。 結果は非常に明確でした。
配偶者やパートナーを「最高の親友」だと考えている人は、そうでない人と比べて、結婚生活から得られる幸福度が約2倍も高かったのです。
結婚している人の約半数がパートナーを親友だと回答しており、この「友情」こそが、日々の喜びを分かち合い、人生の困難に立ち向かう上での精神的な支えとなり、持続的な幸福感を生み出す中核的なメカニズムであると論文は結論づけています。
特にこの効果は、男性よりも女性でより顕著に見られました。
最高のパートナーとは、最高の親友でもある
この研究は、私たちの幸福が運命や生まれ持った性格だけで決まるのではなく、人生における重要な選択、特に「誰と人生を共にするか」という選択によって大きく、そして長く形作られることを示しました。
グローバーとヘリウェルの研究が明らかにした4つの重要な貢献は以下の通りです。
- 結婚前の幸福度を考慮しても、結婚には幸福度を高める因果効果がある。
- 結婚の恩恵は一時的なものではなく、特に中年期において人生の満足度の落ち込みを防ぐ長期的な効果を持つ。
- この中年期のセーフティネット効果は、世界的に見られる現象である。
- 結婚による幸福の最大の源泉は「友情」であり、配偶者が親友である場合、その効果は倍増する。
これから人生のパートナーを選ぶ人、そして既にパートナーと共に歩んでいる人にとって、この論文は「最高のパートナーとは、最高の親友でもある」という、シンプルながらも深い真実を、確かなデータと共に教えてくれるでしょう。
さらに詳しい情報を知りたい方は、ぜひ論文にあたってみてください。
【所長・山崎の考察】研究で明かされる「結婚のメリット」

本研究に限らず、結婚がメリットをもたらすことは多くの先行研究が示しています。
西村・八木(2018)は、未婚であることが人生における不安感を高めること、及び既婚というステータスや世帯収入の高さが前向き志向を高めて幸福感をもたらすことを報告しています。
また、友人関係と恋人関係の心理的メリットを比較した浅野・吉田(2011)は、排他的な関係性から得られるメリットとして『疲れたり傷ついたパートナーを癒やすために“迎え入れる”(coming in)だけでなく,新たな活動に取り組もうとしているパートナーを見守り“送り出す”(going out)という二つの機能』について言及しています。
恋愛関係より夫婦関係のほうが排他的な関係性であることをふまえれば、夫婦関係は個人にとって「迎え入れてもらえて、送り出してもらえる場所」として、社会的責任が増え続ける20〜50代の人々に大きなメリットを提供してくれると言えるでしょう。
<引用>
Shawn Grover & John F. Helliwell(2014)How’s Life at Home? New Evidence on Marriage and the Set Point for Happiness
西村・八木(2018)幸福感と自己決定―日本における実証研究
浅野良輔・吉田俊和 (2011) 関係効力性が二つの愛着機能に及ぼす影響—恋愛関係と友人関係の検討— 心理学研究, 82, 175-182.