【品川祐】不妊治療の苦悩と娘の誕生秘話、子育て論 vol.2
芸歴29年目のコンビ、品川庄司でボケ担当を務めるお笑い芸人、品川祐さん。近年その活動の幅はお笑いだけに留まらず、作家や映画監督としても業界にその名を轟かせている。どの分野でもその実力は一流。アメトーーク!やロンドンハーツなど、誰もが知る番組で最前線のお笑い芸人として活躍する一方、自身が書いた作品が映画化する際には、自らが監督脚本を担当。現在はオリジナル作品も多数輩出し、その広い感性とマルチな才能がさまざまな業界で広く評価されているのは、皆さま周知のとおりである。
コンビ結成から29年。今でも多種多様な分野で活躍し続ける品川さんが、わざわざ不自由を伴う「結婚」を決めた理由はなんなのか。
品川さんと奥さんの出会いは、彼がまだ芸人になるよりずっと昔、なんと31年前に遡る。今回のインタビューでは、そんな品川さんと奥様とのナレソメ、そして、「結婚」そのものへの思いまで。品川祐流「結婚の哲学」を、丁寧に紐解く。
ベストは「授かり婚」だった。5年に及ぶ不妊治療で心がけていたこと
ー以前別のインタビューで、「子どもを持つのが怖かった」という言葉をお見受けしました。そこから実際に、「子どもを生もう」と決められるまでには、どのような心境の変化があったのでしょうか?
品川 正直付き合ってる時から、「できちゃえばいいのに」って思いはあったんだよね。あんまり言い方はよく無いけど、俺の中では授かり婚がベストだった。当時はどうしても、「もうちょっと一人で遊べる時間が欲しい」とか、「もっと稼ぎたい」とかいろいろあって、どうしても「結婚」に踏ん切りがつかなかったから。子どもさえできたら、自分も腹を括るだろうって思っていたところはある。
ーそこまでの気持ちがあるなら、すぐにでも結婚してしまう選択肢もありそうですが…。
品川 いや、そうなんだけどね…。なんだろう。ジムとかもさ、予約入れとけば行くけど、予約入れてないと、「まあ今日はいっか」ってなっちゃわない?あれと一緒で、先にドンっと決められてれば腹を括れる、みたいな。それに近い感覚だったのかもしれない。だからずっと、「できちゃえばいいのにな」って思ってた。思ってたんだけど…できなかったんだよね。
いや、マジで「授かり婚」を目指す人に言いたいんだけど、なかなかできないよ。あれって、とんでもない確率だと思う。
ーそこから、不妊治療に移行されましたよね。
品川 そうそう。結婚後数年は、「できたらいいな」って感じで別に深く考えてなかったんだけど、しばらくしてもできないから、いよいよ病院へ行って。
そこからは排卵誘発剤を使ったり、奥さんの卵子と俺の精子を調べたり……。もう大概のことはやったよね。しかも、検査結果的には俺も奥さんも問題は無いわけ。結局最後まで原因は分からなかったけど、今となっては年齢も関わってたのかなって思ってる。歳をとってるとやっぱり、辿り着くまでに時間がかかるみたいで。結局そこから医療の力に頼って人工授精も5回した。妊娠まではトータル5年かかったよ。
ー不妊治療中の夫婦関係についてのお悩みもよくいただくのですが、品川さんが心がけていたことってありますか?
品川 プレッシャーにならないように、「欲しい」とあんまり言わないようにしてたかな。どうやったって負担は女性の方が大きいから、せめてプレッシャーだけはかけないように気を使ってた。正直、男側にも面倒臭いことはたくさんあるのよ。こんな話するとえぐいけど、一週間自分でもしないで、3日前からはお酒も飲まないで、前日に、「はい、明日ですね」みたいな。さすがに盛り上がりもなんにもないよね(笑)でもそれはね、向こうだけじゃ無くて、俺も子どもが欲しいわけじゃない。協力できるところは黙ってできるようにしてたかな。
ー5年に渡る不妊治療の末、実際にお子さまができたと聞いた時の心境をお伺いできますか?
品川 嬉しかったね。俺はその日飲みに行ってて、朝方酔っ払って帰ってきた時に報告されたんだけど、「うわ、すごいね」って、思わず頭ぽんぽんってしたらしい。
というのも、この話には後日談があってさ……。実はこの一部始終を、奥さんが隠しカメラで録画してたんだよね(笑)しかも俺はそのビデオの存在をずっと知らなくて、3年くらい経った時にある番組で突然「妊娠報告のVTRがあります」って流されたんだよ。「え!?俺そのビデオ知らないんだけど!?」ってびっくり。それもそのはず、奥さんそのビデオ、俺には見せないで、先に加地さん(エグゼクティブ プロデューサー)に見せてたんだよ(笑)その時に、その「頭ぽんぽん」がやたらと評判よかったんだけど、同時に「好感度上げるためのやらせだろ。知らなかったわけがない」みたいな声もあって。いや俺、本当に知らなかったからね!(笑)
ー(笑)出産に立ち会われたとのことですが、実際の現場はいかがでしたか?
品川 それがうちの奥さん、出産する時も本当におかしくて(笑)俺はその時、漫才ギャングって映画を撮ってたんだけど、その日はたまたま、上地雄輔くんと佐藤隆太くんが漫才の練習をする日だったのね。一方奥さんは難産で、出産に40時間以上かかってた。大丈夫かなって心配してた頃に、「もう生まれそうだ!」ってようやく連絡がきて。
スタッフも役者のみんなも、「すぐに病院に行ってください!」って言ってくれたから、俺は慌ててタクシーに飛び乗って病室に駆けつけたわけ。それで扉を開けた瞬間、奥さんが言った言葉が…
「ヒロシ!カメラのアングル直して!」
分娩台の上でお医者さんが必死にお腹を押してる、みたいな時だよ?第一声がそれ!?って(笑)しかもよく見たら顔の表情を抑える定点カメラと、ちょっと引きの2カメで撮っててさ。陣痛が弱まったタイミングで、そのカメラをチェックしてんのよ(笑)40時間ずっとだよ?こんな時に何やってんだよって、マジで笑ったよね。しかも一番謎なのが、それだけ拘って撮ったビデオ、別に編集するわけでも定期的に見るでもなく、ずっと野晒しなの。それがまた面白いんだよね。
「子どもは、人生二週目をくれる」品川さんの育児の拘りとは?
ーお子様が生まれたことで夫婦関係の変化ってありましたか?ドキドキがなくなっちゃうんじゃないかって、不安がる若い世代からの相談もあって……。
品川 子どもが生まれてまで、なんでドキドキしたいの?って、俺は思っちゃうな。俺たちでいうと、大きく関係性が変化したわけではないけれど、役割がママとパパになったのはあるかもしれないね。それも突然なったというより、そこに至るまでに、妊娠中に沐浴の練習させられたりとか、パパ教室で妊婦体験をさせられたりとか、そういう色々なことをやらされながら変わっていったというか……。
ーお仕事で忙しい中、パパ行事にも全て参加されていたのが素晴らしいですね。
品川 そこはスケジュール空けていかないと。それって全然偉いわけじゃないよ。ただでさえいろいろ自由にさせてもらってるんだから、それくらいはやっとかなくちゃ。
ー生まれてからも、家事や育児には積極的だったんですよね?
品川 そこは結構、率先してやってると思う。例えば食事は今も、基本的には俺が作るようにしてる。って言っても俺がせっかちだから、ただ待ってられないだけなんだけどね。朝ごはんと娘の弁当は奥さんだけど、昼や夜、俺がいる時は100%俺が作る。俺は子どもの頃から自分でご飯を作ってたから、食事を作るのが面倒臭いって意識がないんだよね。
あとは奥さんが夜泣きで寝られなかったと聞いたら、いくら朝まで飲んで酒が残っていても「ここからは俺が見るよ」って交代したりとか。
子どもを産んだり育てたりって、女性の方が何百倍も大変。身ごもっている時からずっとだからね。だから、「育児を手伝う」とかそういう話じゃなくて、やるのが普通。男の育児って、「自分がかわいがりたい時にだけかわいがる」が多いでしょう?それじゃあ料理だけして後片付けしないのと一緒だよね。片付けまでして料理だよ。
ー素晴らしい。他に子育てでこだわられたことはありますか?
品川 自分の中で毎日、絵本を10冊読み聞かせるって決めてた。それだけはどれだけフラフラでもやってたかな。
あとは育児っていろんな説があって、あの当時は「抱っこ癖がつくから、抱っこはあまりしない方が良い」みたいに言われてた時期だったんだけど、もう俺たちはトシもトシだし、下の子を作るのはしんどいなって思ってたのもあって。「もうこの子だけなんだったら、いくら抱っこ癖がついたって良いじゃん、向こうから「もういや」って言われるまでは抱っこし続けよう!」ってのは決めてたね。だから、「だっこ」って言われたら100%抱っこしてた。
子育ての本も山ほど読んだな。アメリカと日本での育児の違いとか、多分10冊以上読んだと思う。それを庄司に子どもが生まれた時に渡したら、「圧がすごい」って言われたよね(笑)
ーそれだけ家事育児に参加されるとなると、やっぱり自分の時間は減りますよね?そこらへんのストレスはなかったですか?
品川 それが、なかったんだよね。子どもができて、じゃあ後輩と飲みに行く時間が減ったのか?と言われたらそうでもないし。なんなら子どもが生まれてからは、俺の家で家族ぐるみで集まって飲んだりもできるようになったし。子どもが寝るまでは子供も一緒にご飯を食べて、寝る時間になったら奥さんが寝かしつけてくれる。俺自身が「時間がないなら寝なかったらいいや」、みたいな考えだったし、そんなにストレスはなかった。
ーなるほど。と言うのも、読者からの相談を聞いてると、「子供ができたらやりたいことができなくなるんじゃないの?」って悩みが、結構多いんですよね。品川さんはそうでもなかった。
品川 その人たちの考える「子どもを諦めないとできないこと」って、なんなんだろうね。なんなら俺、一応芸能人なわけじゃん。飲み会とかも、一般の人と比べたら相当行ってるよ?そんな俺でさえ、今どうしても1人でやりたいことって、そんなに無い気がするんだよね。
ゲームも好きだけど、別に子どもとできる。アニメも好きだけど、それも子どもと一緒に見られる。トトロやニモも何回も見たな。しかも、娘と観てると新たな発見とかもあるのよ。「ポニョの家の冷蔵庫の上に、トトロがいたよ!」とかね。「すげえな、そんな小さいもん見つけんだ」って驚いたり、「パンダコパンダが好き」って聞いて、「俺、知らなかったな。じゃあ今度カリオストロの城を見てよ。え?いまいちだった?俺は好きなんだけどな…」とか、そんな感じで、自分と娘のひっかかりの違いを見つけるのが面白い。それをもっと見つけたくて、クレヨンしんちゃんのDVD全部買って「どのエピソードが一番好き?」って聞いてみたりもした。
うちは、「アニメは好きなだけ見ていいよ」って言ってるんだけど、最近は実写も好きみたいだから、「もっとゾンビ映画とか見ようよ」って言ってるんだよね。「嫌だ」って言われたけど(笑)
ーそうなると確かに、「1人じゃなきゃできないこと」って、あまり思い浮かびませんね。
品川 だってそんなに、どうしても一人でやりたいことってある?絶対に1人でしかできないことって、相当だと思うよ。なんだろう、例えば「ジムに行けない」とかかな。子どもができると時間も無いし、金銭的な制限もかかるもんね。だけど、だったら家で筋トレしたらいい話なんだよね。子どもを抱っこしてスクワットするとかどう?子供は喜ぶし、自分は筋トレもできるし一石二鳥。俺もよくやってたよ。あとは、柔術やってた時は連れて行ってたな。娘には興味が無かったみたいだけど。
そういう、子どもと一緒に別の楽しみ方を見つけるって、いくらでもできるよ。子どもと一緒にいることで、俺が知らなかった楽しさに気づくこともある。レゴとかパズルとかさ。子どもはそんなに興味無いんだけど、俺が楽しくなっちゃって。
そういう時も、自分の趣味を押し付ければいいと思うんだよ。いろんなことを一緒にやってみて、子どもが気にいることは2人でやれば良い。その中で自我が芽生えてきたら、勝手に離れてっちゃうのが子どもなんだからさ。楽しめる間は一緒に楽しむ。不自由だからこその楽しさってあるよな、と俺は思ってる。
ー「結婚」や「子供」にはメリットが無いという人がいますが、品川さんにとってはどうですか?
品川 メリットデメリットで考えたことがないからな……。だけど結婚もそうだけど、なにより子どもが生まれたことは、俺の人生の中でもめちゃくちゃ大きなことだったと思う。
ー人生が変わった。
品川 うん。変わったね。なんでもそうなんだけど、1回目に勝るものってないじゃん。例えば初めてディズニーランドに行った日。その前日に「明日ディズニーランドだ!」ってワクワクしたあの感動とかって、大人になるにつれてどうしても薄れてくるんだよね。だけど、子どもができるともう一度、新鮮な「初めて」を経験できる。「子どもと行くはじめてのディズニーランド」になるのよ。
そのほかにも、初めての入学式、はじめての運動会。子どもが生まれたことで、自分の人生の中に、もう一周初めてがある。それが単純に面白い。感動が薄れていく中で刺激が欲しくなって、キャバクラにハマるとか、好きな洋服を買うとか、車買いました、とか、そういう人もいるんだけど、俺の中で子どもは唯一「人生の二週目」ができる存在。そんな感覚があるんだよね。
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ナレソメ予備校の学年主任で、ナレソメノート編集長。元精神科の看護師で夜職の経験もあり。普段はエッセイストや脚本家として活動している。著書「埋まらないよ、そんな男じゃ。」(逆旅出版)他3冊。「愛の炎罪」..etc脚本。日刊spa!でも取材記事を不定期連載中。